上海はロックダウンが解除されましたが、エンタメの再開は目処が立っていません。
コロナ流行以来、厳しい規制を受けながらもどうにか継続してきたミュージカル、演劇、舞踊なども劇場自体が休業となっており、再開されるのは8月以降になるのではと言われています。夏の音楽フェスも今年は上海ではできないと思います。
また、毎年7月末には上海で中国最大のゲームショー「China Joy」が開催されていますが、2022年度はオフラインでの開催はないことを主催者がすでに発表しています。その代わり、オンラインにて「CJ Plus」を MetaJoy 元宇宙数字世界(メタバースデジタルワールド)にて開催するそうです(2022年8月27日~9月2日)。
オミクロン株の蔓延拡大により、深セン、上海、北京などの大都市が都市封鎖を行い、エンタメやイベントが次々と中止になり大きな打撃を受けています。これを打開する方策として、エンタメのバーチャル(VR)化やメタバース展開が流行っています。
“中国最大のアイドルグループ”SNH48は今年10周年を迎えるにあたり、「今後はアイドルとファンとの交流をメタバースで展開していく」と宣言し、社名も「META48 HOLDINGS LTD」(「美踏控股」)に変更する と発表しました。
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SNH48は「AKBの上海姉妹グループ」として2012年に発足しましたが、2016年にAKBから離脱し、それ以降は中国会社が独自運営しています。上海(SNH48)、広州(GNZ48)、北京(BEJ48)、重慶(CKG48)にグループを設置しています。
AKBのコンセプトに基づき、常設劇場での定期公演、握手会などを通じて「会いに行けるアイドル」として活動してきたSNH48ですが、ゼロコロナ政策のため常に劇場が閉鎖されるリスクがあり、従来のスタイルを貫くことは極めて難しくなっています。
さらに、中国当局は、ファンがアイドルを応援するために大量の金銭を投じることを厳しく取り締まっており、大きな声で「総選挙」を宣伝することもできなくなってきました。公演、握手会、総選挙というこれまでの枠組みが成立しなくなっています。
そのため、SNH48グループは、メンバーとファンとのバーチャル空間での交流を強化し、さらに新たなバーチャルアイドルをファンとともに育成していく・・・という事業プランを発表をしました。
「メタバース」(中国語:元宇宙)というキーワードが使われていますが、実質的には「オンライン」と大差ないのではと思います。
「オンライン」という言葉にはもう新鮮味がないので、「メタバース」といっているだけのような気もします。
一方、ファンがメタバース化やバーチャル化を望んでいるのかというと、なんとも言えません。物理的に現場に来ることができないファンにとっては楽になるのかもしれません。
もともとバーチャルとしてスタートするVtuber、VRアイドルもすでに大量に在します。
中国のサブカルに強い動画プラットフォーム「bilibili動画」では、Vtuber、VRアイドルのアカウントが3000以上あると言われています。
その中でも、短期間でファン獲得に成功し、高い技術力を誇るのが3DのVRアイドル「A-SOUL」です。
「A-SOUL」は2020年11月に「芸能事務所楽華(YUEHUA)がプロデュースする初のバーチャルアイドルグループ」としてデビューしました
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「A-SOUL」のメンバーはAva(向晩)、Bella(貝拉)、Carol(珈楽)、Diana(嘉然)、Eileen(乃琳)の5人で、それぞれに細かいキャラクター設定があります。一番左のDiana(嘉然)が圧倒的に人気があります。ビジュアル、キャラが特に可愛いです。一番動きがナチュラルなのはBella(貝拉)と言われています。
楽華娯楽(YUEHUA ENTERTAINMENT)は中国の大手芸能事務所で、ハンギョン(韓庚)、王一博(ワン・イーボー)、黄明昊(ジャスティン)など多数のアイドルが所属しています。韓国子会社(ウィエファ)には宇宙少女、EVERGLOW等が在籍しています。
Vtuberは2Dと3Dでコストが大きく異なり、3D化すると器材やソフトウェアにかかるコストが桁違いに上がります。
A-SOULを手掛ける「杭州看潮信息諮詢有限公司」はバイトダンスの孫会社なので、A-SOULの実質的な出資者はバイトダンスと認識されています。バイトダンスはTikTokの親会社で、中国のIT巨頭の一つです。
A-SOULはデビューしてから瞬く間に人気を獲得しました。
5人組のアイドルグループとして楽曲も定期的にリリースしていますが、曲がいいから売れたというわけでもないです。熱狂的なファンを短期間で獲得できたのは、A-SOULがファンとリアルに交流できるVRアイドルだったからです。
2021年7月に開催されたアニメ・ゲームイベント「BILIBILI WORLD」に「A-SOUL」のブースがあり、ファン交流イベントが開催されていました。
イベントを見たとき、「一体どんな技術を使えばこんなことができるのだ」と衝撃を受けました。
3DのVRアイドルがリアルタイムに動き、滑らかにファンにレスポンスを返しています。さらに、5人のメンバーが互いに人間と同じように触れ合っています。
指先に至るまで動きがリアルで、人間らしく振り付けを間違えたりしますが、そのビジュアルはバーチャルならではの可愛らしさです。
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イベントのスクリーンに現れたA-SOULのメンバーは、ファンとリアルタイムに交流していますが、私たちが見えないどこかで、3D VR用の黒い全身装着型スーツを身にまとい、素顔を決して見せることのない「中の人」がA-SOULを演じているのです。
Vtuberには声を担当する「中の人」がいるものですが、A-SOULはグループアイドルという設定なので、ダンスや歌もこなさなくてはなりません。
飛ぶ鳥を落とす勢いで成長してきたA-SOULですが、公式は5月10日にメンバーの一人、CAROL(珈楽)が活動を休止すると発表しました。休止する原因は、CAROLの声や動作を担当する「中の人」の健康及び学業上の問題だと説明がありました。
つまり、CAROLの「中の人」との契約を続けられなくなったため、CAROLの「中の人」を交代するのではなく、CAROL自体を休止することにしたのです。突然の発表ではありましたが、公式はCAROLを円満に「卒業」させようとしていました。
ところが、これに対してファンが猛烈に反発しました。
反発を煽ったのは、ネット上に流布された「CAROLの「中の人」が辞めたのは、新卒社員よりも安い賃金で酷使されて体調を崩し、スタッフから十分なケアも受けられなかったから」という"暴露”情報でした。この情報の真偽は明らかではないものの、バイトダンスの関係者と名乗る人物が流布したこと、CAROLの中の人のアカウントとされるSNSが暴露され、そこに体調不良を訴える書き込みがあったことで火がつきました。
公式はもちろんこの暴露情報を否定しましたが、報酬に関して具体的な金額を公表することはできなかったため、ファンの怒りを鎮めることができませんでした。
3DのVRアイドルであるA-SOULを運営するために、立上げ時には300名のスタッフで稼働しており、立上げ後も裏方で支えるスタッフが200名いると言われています。
プロジェクト運営側にとっては、声や動作を担う「中の人」はプロジェクトメンバーの一人に過ぎません。プロジェクト全体をみれば、「中の人」よりももっと重要なタスクを担うエンジニアもいるはずです。
しかし、A-SOULをアイドルとして応援しているファンにとっては、感情移入する対象はエンジニアではなく、あくまで声や動作を演じる「中の人」である女の子だったのです。
「中の人」が代わりがきかない存在なのであれば、VRアイドルであれど、生身のアイドルと変わらないのではないでしょうか。
人間が感情移入するのは結局人間なのかもしれません。
ファンはA-SOULの高度な技術に魅了されましたが、技術を第一に考える人間は、VRアイドルを応援する側ではなく、作る側になるのかもしれません。
コロナ流行以来、厳しい規制を受けながらもどうにか継続してきたミュージカル、演劇、舞踊なども劇場自体が休業となっており、再開されるのは8月以降になるのではと言われています。夏の音楽フェスも今年は上海ではできないと思います。
また、毎年7月末には上海で中国最大のゲームショー「China Joy」が開催されていますが、2022年度はオフラインでの開催はないことを主催者がすでに発表しています。その代わり、オンラインにて「CJ Plus」を MetaJoy 元宇宙数字世界(メタバースデジタルワールド)にて開催するそうです(2022年8月27日~9月2日)。
オミクロン株の蔓延拡大により、深セン、上海、北京などの大都市が都市封鎖を行い、エンタメやイベントが次々と中止になり大きな打撃を受けています。これを打開する方策として、エンタメのバーチャル(VR)化やメタバース展開が流行っています。
“中国最大のアイドルグループ”SNH48は今年10周年を迎えるにあたり、「今後はアイドルとファンとの交流をメタバースで展開していく」と宣言し、社名も「META48 HOLDINGS LTD」(「美踏控股」)に変更する と発表しました。

SNH48は「AKBの上海姉妹グループ」として2012年に発足しましたが、2016年にAKBから離脱し、それ以降は中国会社が独自運営しています。上海(SNH48)、広州(GNZ48)、北京(BEJ48)、重慶(CKG48)にグループを設置しています。
AKBのコンセプトに基づき、常設劇場での定期公演、握手会などを通じて「会いに行けるアイドル」として活動してきたSNH48ですが、ゼロコロナ政策のため常に劇場が閉鎖されるリスクがあり、従来のスタイルを貫くことは極めて難しくなっています。
さらに、中国当局は、ファンがアイドルを応援するために大量の金銭を投じることを厳しく取り締まっており、大きな声で「総選挙」を宣伝することもできなくなってきました。公演、握手会、総選挙というこれまでの枠組みが成立しなくなっています。
そのため、SNH48グループは、メンバーとファンとのバーチャル空間での交流を強化し、さらに新たなバーチャルアイドルをファンとともに育成していく・・・という事業プランを発表をしました。
「メタバース」(中国語:元宇宙)というキーワードが使われていますが、実質的には「オンライン」と大差ないのではと思います。
「オンライン」という言葉にはもう新鮮味がないので、「メタバース」といっているだけのような気もします。
一方、ファンがメタバース化やバーチャル化を望んでいるのかというと、なんとも言えません。物理的に現場に来ることができないファンにとっては楽になるのかもしれません。
もともとバーチャルとしてスタートするVtuber、VRアイドルもすでに大量に在します。
中国のサブカルに強い動画プラットフォーム「bilibili動画」では、Vtuber、VRアイドルのアカウントが3000以上あると言われています。
その中でも、短期間でファン獲得に成功し、高い技術力を誇るのが3DのVRアイドル「A-SOUL」です。
「A-SOUL」は2020年11月に「芸能事務所楽華(YUEHUA)がプロデュースする初のバーチャルアイドルグループ」としてデビューしました

「A-SOUL」のメンバーはAva(向晩)、Bella(貝拉)、Carol(珈楽)、Diana(嘉然)、Eileen(乃琳)の5人で、それぞれに細かいキャラクター設定があります。一番左のDiana(嘉然)が圧倒的に人気があります。ビジュアル、キャラが特に可愛いです。一番動きがナチュラルなのはBella(貝拉)と言われています。
楽華娯楽(YUEHUA ENTERTAINMENT)は中国の大手芸能事務所で、ハンギョン(韓庚)、王一博(ワン・イーボー)、黄明昊(ジャスティン)など多数のアイドルが所属しています。韓国子会社(ウィエファ)には宇宙少女、EVERGLOW等が在籍しています。
Vtuberは2Dと3Dでコストが大きく異なり、3D化すると器材やソフトウェアにかかるコストが桁違いに上がります。
A-SOULを手掛ける「杭州看潮信息諮詢有限公司」はバイトダンスの孫会社なので、A-SOULの実質的な出資者はバイトダンスと認識されています。バイトダンスはTikTokの親会社で、中国のIT巨頭の一つです。
A-SOULはデビューしてから瞬く間に人気を獲得しました。
5人組のアイドルグループとして楽曲も定期的にリリースしていますが、曲がいいから売れたというわけでもないです。熱狂的なファンを短期間で獲得できたのは、A-SOULがファンとリアルに交流できるVRアイドルだったからです。
2021年7月に開催されたアニメ・ゲームイベント「BILIBILI WORLD」に「A-SOUL」のブースがあり、ファン交流イベントが開催されていました。
イベントを見たとき、「一体どんな技術を使えばこんなことができるのだ」と衝撃を受けました。
3DのVRアイドルがリアルタイムに動き、滑らかにファンにレスポンスを返しています。さらに、5人のメンバーが互いに人間と同じように触れ合っています。
指先に至るまで動きがリアルで、人間らしく振り付けを間違えたりしますが、そのビジュアルはバーチャルならではの可愛らしさです。



イベントのスクリーンに現れたA-SOULのメンバーは、ファンとリアルタイムに交流していますが、私たちが見えないどこかで、3D VR用の黒い全身装着型スーツを身にまとい、素顔を決して見せることのない「中の人」がA-SOULを演じているのです。
Vtuberには声を担当する「中の人」がいるものですが、A-SOULはグループアイドルという設定なので、ダンスや歌もこなさなくてはなりません。
飛ぶ鳥を落とす勢いで成長してきたA-SOULですが、公式は5月10日にメンバーの一人、CAROL(珈楽)が活動を休止すると発表しました。休止する原因は、CAROLの声や動作を担当する「中の人」の健康及び学業上の問題だと説明がありました。
つまり、CAROLの「中の人」との契約を続けられなくなったため、CAROLの「中の人」を交代するのではなく、CAROL自体を休止することにしたのです。突然の発表ではありましたが、公式はCAROLを円満に「卒業」させようとしていました。
ところが、これに対してファンが猛烈に反発しました。
反発を煽ったのは、ネット上に流布された「CAROLの「中の人」が辞めたのは、新卒社員よりも安い賃金で酷使されて体調を崩し、スタッフから十分なケアも受けられなかったから」という"暴露”情報でした。この情報の真偽は明らかではないものの、バイトダンスの関係者と名乗る人物が流布したこと、CAROLの中の人のアカウントとされるSNSが暴露され、そこに体調不良を訴える書き込みがあったことで火がつきました。
公式はもちろんこの暴露情報を否定しましたが、報酬に関して具体的な金額を公表することはできなかったため、ファンの怒りを鎮めることができませんでした。
3DのVRアイドルであるA-SOULを運営するために、立上げ時には300名のスタッフで稼働しており、立上げ後も裏方で支えるスタッフが200名いると言われています。
プロジェクト運営側にとっては、声や動作を担う「中の人」はプロジェクトメンバーの一人に過ぎません。プロジェクト全体をみれば、「中の人」よりももっと重要なタスクを担うエンジニアもいるはずです。
しかし、A-SOULをアイドルとして応援しているファンにとっては、感情移入する対象はエンジニアではなく、あくまで声や動作を演じる「中の人」である女の子だったのです。
「中の人」が代わりがきかない存在なのであれば、VRアイドルであれど、生身のアイドルと変わらないのではないでしょうか。
人間が感情移入するのは結局人間なのかもしれません。
ファンはA-SOULの高度な技術に魅了されましたが、技術を第一に考える人間は、VRアイドルを応援する側ではなく、作る側になるのかもしれません。