「上癮 Addicted」(簡体字表記:上瘾)というネットドラマが中国で非常に話題になりました。
この作品は動画サイト配信のみの中国ネットドラマです。
2016年1月29日の配信開始直後から話題を攫い、24時間以内に1000万回突破、またたく間にトータル再生回数が1億回を超え、ドラマランキングの上位に食い込む勢いでした。
「上癮 Addicted」は中国国産のBLドラマです。
原作はネットBL小説で、ドラマのプロデューサーでもある柴鶏蛋女史の作品です。
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「上癮 Addicted」が配信開始直後から注目を集めたのは、同じプロデューサーによる前作の実績があったことも一因といえます。
2015年に「逆襲之愛上情敵」というBL自主制作ドラマが異例の大ヒットとなり、同プロデューサーの第二弾ともいえる「上癮 Addicted」は、ファンからの熱い期待が寄せられていました。(「逆襲之愛上情敵」については過去ログをご覧ください)
加えて、大手の動画サイトがこぞって配信しており、動画サイトというのは人気ランキングが明瞭で、再生回数が高い作品をどんどん前に出して宣伝していくので、嫌でも目につくような状況でした。
制作側は「逆襲之愛上情敵」の例にならって主人公のBLカップルと脇役のカップルの2組をプッシュして、ユニットソングを歌わせたり、ファンミーティングを開いたりと、さあ、いよいよこれからというときに、テレビ・映画を管轄する政府機関(広電総局)により、配信停止令が出てしまったのです。
配信停止令が出たのは2月22日、第1回目の上海ファンミーティングが開催された僅か2日後でした。
配信停止令さえ出なければ、今頃、中国の全国各地でファンミーティングをやりまくっていたはずなのに・・・・。
政府命令によりドラマが放送停止になることは、中国では時々あることなのですが、「上癮 Addicted」に対する処分は厳しいものでした。
12話まで配信された時点で全話視聴不可にされ、修正版の再配信も認められていません。
第二部も予定されていましたが、配信停止令を受けたため制作中止が伝えられています。
配信停止された理由は、同性愛、不倫、若年恋愛を助長する表現がよろしくないということです。
中国では抹殺されてしまいましたが、Youtubeでは全話視聴できます。(但しベッドシーンなどがかなりカットされており、カットの都合で話が飛んでいるところがあります)
腐女子でなくても、この作品はドラマとしてすごく面白いです。
このドラマが中国で人気を集めたのは、BL実写ドラマの物珍しさだけが理由ではありません。
型が決まっている商業化されたメジャードラマにはない面白みがこのドラマにはあります。
生活感のある演出、素朴な役者の演技、方言の混じったセリフ、低予算ネットドラマならではの小汚い画面が視聴者をひきつけたのです。
新人を起用することによって、より現実感を引き出すことに成功しています。
テレビドラマはドラマ俳優・女優が出演するのが当たり前ですが、整った容姿で皆が知っている「有名な人気俳優・女優が演じている」という時点で、現実からは大きく遠ざかってしまいます。
その点、「上癮」はビジュアル的にはかなり微妙だけれど、個性のある新人をキャスティングして、独特の作品世界を作り出しています。
主役、脇役にいたるまでキャスティングが面白いです。
主人公・顧海(グーハイ)の彼女(後に元彼女)は、まったく可愛らしくもないし、誰が見ても「こんな女のどこがいいんだ」と思う粗暴でわがままで面倒くさいキャラです。
突っ込みどころ満載でかえって話題になった彼女ですが、本業は長身と個性的な顔立ちを生かしたファッションモデルだそうです。
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主人公2人の親たちが登場しますが、いずれも何らかの面において弱さのある人たちです。
大人になっても、親になっても、必ずしも立派な人間に成長できるとは限らず、むしろ、立派に成長できない人のほうが多いというのが現実です。
子どもを愛してはいても、経済的・精神的な弱さに打ち勝つことはできない、「等身大の親」たちであり、その無意識の身勝手さや卑屈さが淡々と描かれています。
一方で、主人公BLカップルは、回を追うごとに理想化されていきます。
BLカップルの攻役(顧海/グー・ハイ)の方は、ガチホモ行為全開演出なのですが、受役のキャラが素朴さと冷静さを失わないので、爽やかな空気が保たれています。
顧海の役者の演技が上手く、後半になるにつれてどんどん彼氏力が上がり、その演出の巧みさはタイの視聴者からも大絶賛されています。
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写真右:権力者の父を持ち、物質的には恵まれているが家族の愛情に飢えている筋肉質な少年、顧海(グー・ハイ)を演じたのは黄景瑜。1992年生まれ、身長187cm。
写真左:父と祖母と身を寄せ合って生きている、勉強ができるが居眠りしてばかりの達観した少年、白洛因(バイ・ルオイン)を演じたのは許魏洲。1994年生まれ、185cm。歌が上手いです。
本当は第二部が制作されるはずでした。
第15話で一応は完結していますが、未回収の伏線が山のようにあります。
例えば、サブキャラ同級生の二人の関係、顧海の従兄弟のお兄さんなどはこれから重要なキャラとして活躍しそうだったのに・・・・。
特に顧海の従兄弟のお兄さん(役名:顧洋)は、第14話で主人公の二人と食事をしながら重要なセリフを落としていきます。
従兄弟のお兄さん 「・・・海洛因」
顧海 「うん。俺たちの名前を繋げると、麻薬になるんだ」
お兄さん 「・・・・・」
主人公の顧海(グー・ハイ)と白洛因(バイ・ルオイン)の名前をつなげると「海洛因」(ハイルオイン)になるわけですが、これは、中国語でヘロインという意味なのです。
あーーーーっ!!
だから「上癮 」(Addicted)っていうタイトルになるのかーーー!「上瘾」は「中毒になる、やみつきになる」という意味です。
鳥肌が立ちました。
中国ドラマ界において、新しい歴史の一歩を踏み出した素晴らしい作品だったのに、配信停止になったのは本当に残念です。
Youtube上では世界各国にファンがいるようです。
台湾を配信先として続編が作られるという話もありますが、中国国内では配信停止処分になっただけでなく、出演者も劇中の役柄とリンクした活動を行うことは控えざるをえないようなので、俳優の将来を考えると、続編は諦めざるを得ないのかもしれません。
【おまけ:中国語の人名、呼称について】
顧海の父親が部下の男から「首長」と呼ばれていますが、「首長」は軍または行政機関のトップの立場にある人に対する呼称です。
「首長」という呼称は一般的には軍が想定されるので、顧海は高級軍人の裕福な家庭の一人息子という設定とみられます。
同級生役の「尤其」。「尤」は珍しい姓ですが実際に存在します。「其」が名前ということになりますが、姓と名前を繋げて読むと「尤其」になり、「特に」という意味になります。珍名です。自己紹介のときにクラスメートが「はあ?」という顔をし、本人も周りのそんな反応に慣れているという描写が第1話にあります。
この作品は動画サイト配信のみの中国ネットドラマです。
2016年1月29日の配信開始直後から話題を攫い、24時間以内に1000万回突破、またたく間にトータル再生回数が1億回を超え、ドラマランキングの上位に食い込む勢いでした。
「上癮 Addicted」は中国国産のBLドラマです。
原作はネットBL小説で、ドラマのプロデューサーでもある柴鶏蛋女史の作品です。


「上癮 Addicted」が配信開始直後から注目を集めたのは、同じプロデューサーによる前作の実績があったことも一因といえます。
2015年に「逆襲之愛上情敵」というBL自主制作ドラマが異例の大ヒットとなり、同プロデューサーの第二弾ともいえる「上癮 Addicted」は、ファンからの熱い期待が寄せられていました。(「逆襲之愛上情敵」については過去ログをご覧ください)
加えて、大手の動画サイトがこぞって配信しており、動画サイトというのは人気ランキングが明瞭で、再生回数が高い作品をどんどん前に出して宣伝していくので、嫌でも目につくような状況でした。
制作側は「逆襲之愛上情敵」の例にならって主人公のBLカップルと脇役のカップルの2組をプッシュして、ユニットソングを歌わせたり、ファンミーティングを開いたりと、さあ、いよいよこれからというときに、テレビ・映画を管轄する政府機関(広電総局)により、配信停止令が出てしまったのです。
配信停止令が出たのは2月22日、第1回目の上海ファンミーティングが開催された僅か2日後でした。
配信停止令さえ出なければ、今頃、中国の全国各地でファンミーティングをやりまくっていたはずなのに・・・・。
政府命令によりドラマが放送停止になることは、中国では時々あることなのですが、「上癮 Addicted」に対する処分は厳しいものでした。
12話まで配信された時点で全話視聴不可にされ、修正版の再配信も認められていません。
第二部も予定されていましたが、配信停止令を受けたため制作中止が伝えられています。
配信停止された理由は、同性愛、不倫、若年恋愛を助長する表現がよろしくないということです。
中国では抹殺されてしまいましたが、Youtubeでは全話視聴できます。(但しベッドシーンなどがかなりカットされており、カットの都合で話が飛んでいるところがあります)
腐女子でなくても、この作品はドラマとしてすごく面白いです。
このドラマが中国で人気を集めたのは、BL実写ドラマの物珍しさだけが理由ではありません。
型が決まっている商業化されたメジャードラマにはない面白みがこのドラマにはあります。
生活感のある演出、素朴な役者の演技、方言の混じったセリフ、低予算ネットドラマならではの小汚い画面が視聴者をひきつけたのです。
新人を起用することによって、より現実感を引き出すことに成功しています。
テレビドラマはドラマ俳優・女優が出演するのが当たり前ですが、整った容姿で皆が知っている「有名な人気俳優・女優が演じている」という時点で、現実からは大きく遠ざかってしまいます。
その点、「上癮」はビジュアル的にはかなり微妙だけれど、個性のある新人をキャスティングして、独特の作品世界を作り出しています。
主役、脇役にいたるまでキャスティングが面白いです。
主人公・顧海(グーハイ)の彼女(後に元彼女)は、まったく可愛らしくもないし、誰が見ても「こんな女のどこがいいんだ」と思う粗暴でわがままで面倒くさいキャラです。
突っ込みどころ満載でかえって話題になった彼女ですが、本業は長身と個性的な顔立ちを生かしたファッションモデルだそうです。

主人公2人の親たちが登場しますが、いずれも何らかの面において弱さのある人たちです。
大人になっても、親になっても、必ずしも立派な人間に成長できるとは限らず、むしろ、立派に成長できない人のほうが多いというのが現実です。
子どもを愛してはいても、経済的・精神的な弱さに打ち勝つことはできない、「等身大の親」たちであり、その無意識の身勝手さや卑屈さが淡々と描かれています。
一方で、主人公BLカップルは、回を追うごとに理想化されていきます。
BLカップルの攻役(顧海/グー・ハイ)の方は、ガチホモ行為全開演出なのですが、受役のキャラが素朴さと冷静さを失わないので、爽やかな空気が保たれています。
顧海の役者の演技が上手く、後半になるにつれてどんどん彼氏力が上がり、その演出の巧みさはタイの視聴者からも大絶賛されています。

写真右:権力者の父を持ち、物質的には恵まれているが家族の愛情に飢えている筋肉質な少年、顧海(グー・ハイ)を演じたのは黄景瑜。1992年生まれ、身長187cm。
写真左:父と祖母と身を寄せ合って生きている、勉強ができるが居眠りしてばかりの達観した少年、白洛因(バイ・ルオイン)を演じたのは許魏洲。1994年生まれ、185cm。歌が上手いです。
本当は第二部が制作されるはずでした。
第15話で一応は完結していますが、未回収の伏線が山のようにあります。
例えば、サブキャラ同級生の二人の関係、顧海の従兄弟のお兄さんなどはこれから重要なキャラとして活躍しそうだったのに・・・・。
特に顧海の従兄弟のお兄さん(役名:顧洋)は、第14話で主人公の二人と食事をしながら重要なセリフを落としていきます。
従兄弟のお兄さん 「・・・海洛因」
顧海 「うん。俺たちの名前を繋げると、麻薬になるんだ」
お兄さん 「・・・・・」
主人公の顧海(グー・ハイ)と白洛因(バイ・ルオイン)の名前をつなげると「海洛因」(ハイルオイン)になるわけですが、これは、中国語でヘロインという意味なのです。
あーーーーっ!!
だから「上癮 」(Addicted)っていうタイトルになるのかーーー!「上瘾」は「中毒になる、やみつきになる」という意味です。
鳥肌が立ちました。
中国ドラマ界において、新しい歴史の一歩を踏み出した素晴らしい作品だったのに、配信停止になったのは本当に残念です。
Youtube上では世界各国にファンがいるようです。
台湾を配信先として続編が作られるという話もありますが、中国国内では配信停止処分になっただけでなく、出演者も劇中の役柄とリンクした活動を行うことは控えざるをえないようなので、俳優の将来を考えると、続編は諦めざるを得ないのかもしれません。
【おまけ:中国語の人名、呼称について】
顧海の父親が部下の男から「首長」と呼ばれていますが、「首長」は軍または行政機関のトップの立場にある人に対する呼称です。
「首長」という呼称は一般的には軍が想定されるので、顧海は高級軍人の裕福な家庭の一人息子という設定とみられます。
同級生役の「尤其」。「尤」は珍しい姓ですが実際に存在します。「其」が名前ということになりますが、姓と名前を繋げて読むと「尤其」になり、「特に」という意味になります。珍名です。自己紹介のときにクラスメートが「はあ?」という顔をし、本人も周りのそんな反応に慣れているという描写が第1話にあります。